日本では夏に「土用の丑の日」として、ウナギを食べます。
韓国でも同じような理由から、滋養食を食べるのですが似て非なるもの。
国が違えば、食べるものも違う!
というわけで、今回は韓国版、土用の丑の日をご紹介します。
初・サムゲタン体験。お店は長蛇の列!
韓国に初めて降り立ったのは夏でした。
右も左もわからないまま、ある日主人の韓国人の同僚の方と食事をすることになりました。
当然のことながら、食事の場所はその方におまかせしたのですが、連れて行かれたお店が長蛇の列!
二階にあると思われる店に続く階段から外まで、ずらっと人が並んでいるのです。
勝手な印象として、気が長そうには思えない韓国の人たちが、暑い日にじっと順番を待っている姿はちょっと異常な感じです。
その同僚の方も、いつもだったら待つことに苛立ちを隠さないタイプなのですが、
その日はスタスタとその列の最後尾についたのでした。
「すごい人気のお店ですね。」
と聞いたところ、
「今日はサムゲタンを食べなければいけませんからね。」
とのこと。
並んでいるお店の看板を見上げると、「参鶏湯」とあります。これを「サムゲタン」と読むのです。
どうやら鳥料理のようだな、と思いながらも、なぜ今日はサムゲタンを食べる必要があるのだろうと疑問でした。
吹き出る汗に耐えながら、かなりの時間が経ち、ようやく店内に。
そこに広がっていたのは、だだっ広いお座敷に長テーブルと座布団がずらっと並ぶ宴会場の様相でした。
そして、さらに驚いたのは、そこにひしめくお客さんが全員同じものを食べているということです。
サムゲタン屋さんなので、それは当たり前なのですが、このサムゲタン、石焼きの器に鳥が丸ごと入っているから、ものすごい迫力。
初めて見た光景に、私はさっきまでの暑さをすっかり忘れていました。
さて、席に着くと店員は有無を言わさず、
「サムゲタン 3人分ね。」
といって立ち去りました。
しばし談笑していると、きました!
大きな器に、乳白色のスープと鳥の姿そのままが鎮座しており、なんだかグロテスク。
そもそも、この鳥はどうやって食べるのでしょうか。ナイフも見当たらないし、お箸で丸ごと食べられるのか、と躊躇していたら、同僚の方はスプーンでおもむろに鳥をほぐしました。
見た目に反して、柔らかい鶏肉はホロホロと崩れ、中から何やら出てきました。
どうやら、もち米とナツメ、高麗人参などが鳥の中に詰め込まれているようです。
私も早速、スプーンでほぐして食べてみました。
「おいしい!」
冷房ガンガンの中、この熱々のサムゲタンをほおばるのも不思議な状況ですが、スープも淡白かと思いきや、深い味わいでどんどん食が進みます。
これは、大勢の人が「鳥を喰う」といった感じで食べるのもうなずけるな、と思いました。
しかし、そうは言っても夏の暑い日に長時間並んでまで食べたい、と思う人がこんなにも多いのはやはり疑問でした。
それには、ちゃんとした理由がありました。
韓国版 土曜の丑の日「ポンナル」
あとで調べたところ、その日は「ポンナル」という特別な日で、いわゆる「土用の丑の日」だったのです。
韓国でも暑気払いに滋養強壮にいいものを食べる、という文化があり、それが「サムゲタン」なのでした。サムゲタンは生後数十日の若鶏のお腹に、もち米、ナツメ、栗、高麗人参などを詰めて、長時間煮込んだ料理で、夏バテ防止にいいとされているそうです。
日本でいうウナギと同じで、一年中食べられる定番料理ではあるものの、特に暑い夏には人気の高い食べ物です。
ただ、さすが韓国。暑くてたまらない日に、グツグツ煮込んだ熱い料理を食べるところが、日本と違うところですね。
韓国には「以熱治熱」という四字熟語があり、これは「熱を持って熱を制す」といった意味があるそうです。
素麺などで涼む日本とは違い、熱には熱を、の精神にまたも韓国人の気質を感じたのでした。
あとがき
この日初めてサムゲタンを食べて元気が出た私は、その後何度もサムゲタンを求めてお店に通いました。
日本に帰ってからも、韓国料理屋さんで見つけては注文したのですが、やはり本場の味、特にそのポンナルに食べたサムゲタンの味にはかなわず。
単純にそのお店が美味しかったのか、ポンナルのために並んでようやく食べられたから美味しく感じたのか、夏だったからか、初めて食べたからか、いろいろ考えるのですが、やはりあの日のサムゲタンの味を忘れることはできません。
ひとつ言えるのは、韓国の夏に食べたからこそ、元気が出たのだということ。やはり現地の暑さに合わせて作られた滋養食なのだと実感しています。
いつかまた、その味を再び感じることができる日が楽しみです。